学振について その4 ー採用のためのポイントー

 

採用のためのポイント

 学振申請書で気をつけたいポイントを列挙して見た.審査領域によっる違いはあるかもしれないが,一般的に重要と思われることを書いて見たいと思う.

パッと見た分かりやすさ

 審査をしてくれる専門員の先生方は,かなり忙しい.時間がない中,何百枚もの申請書の優劣をつけなければならない.そのため,申請書一枚一枚を頭から最後までじっくりと時間をかけて熟読することはまずない.ざっと流し読みして,申請書がポイントを押さえた文章であるかどうかを判断している.もし,しばらく読んで内容が頭に入ってこないような文章であれば,それでもう不採用となってもなんら不思議ではない.審査をする専門員の先生曰く,「5秒も見れば申請書の文章レベルを判断できる」らしい.

 このようにまず読んでもらえないということを避けるために重要なのが,文章としての分かりやすさである.パラグラフごとに要点が論理的にまとまっているか,論理が飛躍していないか,誤字脱字誤植がないかなど,文章を作成する上で基本的なことは押さえておかなければならない.ダラダラと文章が続けるのではなく,記載項目ごとにタイトルを記載するなど,この文章が何について記載された文章であるか分かりやすくまとめた方が良い.

研究業績の充実具合

 研究業績も重要な項目である.専門員の先生方はその審査領域のスペシャリストとして選出されるが,研究分野の1から10まで全てに精通しているわけではない.自分の行なっている研究には詳しくても,ちょっとマニアックな研究にもなると,その研究がどれくらい重要なのか分からないこともある.このような研究を適切に評価することは難しいため,できる限り平等な審査のために参考にするのが「研究業績」である.申請者の名前が記載された,論文,総説,特許などの数を見ることで,申請者の研究者としての実力を手っ取り早く評価してしまおうということである.

評価書の内容

 申請書の評価書は,指導教官がその申請者のことをどう評価しているかを知ることができる項目である.評価書に悪いことを書くような指導教官は見たことがないが,申請者の研究者としての適正をある程度は反影して記述されるだろう.つまり,普段からしっかりと研究を頑張っている学生と,そうでない学生の評価書の書き方が同じということはないだろうということだ.評価書いっぱい良いことを書いてもらえるように,普段から教授の評価を少しは気にしておくといい.

何度も見直す,見てもらう

 どれだけ自分がいい文章を書けたと思っても,何度も何度も見直した方がいい.頭から全部じっくりと読んで見て,専門分野以外の人でもある程度内容が理解できるような文章になっているかを確認する.自分が十分な出来だと思っても,いざ他人に読んでもらうと,「ここがダメだ」「ここが分かりにくい」といった欠点が見つかる.直接,研究室のスタッフ陣に添削してもらうのが一番良いが,十分な時間を割いてくれる人は多くないだろう.そういう時は研究室の学振に採用されている先輩のアドバイスをもらうといい.採用のコツを教えてくれるかもしれない.過去に学振に採用された人の申請書をお手本にするのも手っ取り早くていい.自分の申請書のレベルが,学振に採用されるようなレベルに到達しているかを比べることができるだろう.学振に採用・不採用になったそれぞれの申請書と見比べると,あぁやっぱり採用される人の申請書は違うなぁと気づくことができるはずである.

学振について その3 ー申請書の作成ー

 

学振申請書類に書くこと

 学振に提出するDC1とDC2の申請書は全11ページある.このうち最初の2ページは,「1.申請者情報等」について記載するページである.3〜9ページは,「博士課程で実施する研究」について記述する箇所であり,「2.現在までの研究状況」「3.これからの研究計画」「4.研究業績」「5.自己評価」の4つの項目に分かれている.申請書の中で最も時間をかけて作成しなければならないところであり,それぞれかなり念密に作りこむ必要がある.申請書10〜11ページは,指導教官から申請者への「評価書」になる.

 以下にそれぞれの項目で具体的に何を書くのかについてまとめてみた.

1.申請者情報等

申請者の審査領域,研究課題,氏名,国籍,生年月日,学歴,研究歴,現在の研究指導者(所属研究室の教授や准教授)などを書く.もしも,博士課程から別の研究室に移る場合は,受け入れ先の研究指導者についても記載しなければならない.そのため,申請書を作成する前に,受け入れ先の研究指導者に博士課程進学の意思と計画についてしっかりと伝えておく必要がある.

2.現在までの研究状況

 「2.現在までの研究状況」は,研究室に配属されてから現在に至るまでどのような研究を行ってきたかについて記述する.A4サイズ1ページ半ぐらいのスペースに,①研究背景,問題点,解決方策,研究目的,研究方法,特色と独創的な点についてと,②研究経過と結果についてを全て記載しなければならない.書きたいことを長々と記述することはできないため,必要なポイントを絞ってわかりやすく記述する必要がある.必要なら図表を入れても良い.もし,学部から修士課程へ進学する過程で研究室を変更した場合は,学部生時代の研究成果を記述することもできる.もし既にアピールできる研究業績(論文や学会発表)がある場合は,「確かにこの申請者が行った研究なのだな」ということを示すために,そに旨を謙虚かつ目立つように記載しておくと良い.

3.これからの研究計画

 「3.これからの研究計画」では,(1)研究背景,(2)研究目的・内容,(3)研究の特色・独創的な点,(4)年次計画,(5)人権保護,法令遵守への対応について記述するところである.勘違いしてはいけないのがここでの(1)〜(3)は,「2.現在までの研究状況」で記述した内容とは違うということだ.2.で記述するのはこれまで行った研究の研究背景・目的・内容・特色等であって,3.で記述するのはこれから行う研究の研究背景・目的・内容・特色等である.「結果ゼロの状態からこのような研究をするつもりです」ということを書いてもいいのだけれども,できれば「既にこのような予備的な成果がでていてこの研究はうまくいきそうですよ」ということをアピールしておいた方がいい.(4)では(2)で示した研究内容をどのような期間で実施するかを記載する.どれだけの期間でどのような目標を達成するつもりなのかを具体的かつ明確に書かなければならない.(5)は個人情報を伴うアンケート調査,国内外の文化遺産調査,ヒト遺伝子の研究や動物実験など,研究を遂行する上で人権保護や法令遵守の観点から対応が求められる場合のみ,どのように対応するつもりなのかを記載すれば良い.これらと関係ない研究の場合は「本研究では該当しない」とだけ記載しておけばいい.

4.研究業績

 「4.研究業績」には(1)論文,(2)総説,(3)国際学会の発表,(4)国内学会の発表,(5)特許,(6)その他を記載する.自分の名前が記載されている論文・総説・学会発表・特許に関しては,申請者の名前がセカンドでもサードでも記載することができる.論文・総説は,査読中のものに関しては記載することができず,アクセプトされたものでないといけない.学会発表は,申請者が発表してい学会であっても申し込んだ発表に申請者の名前が記載されていれば書いていい.国内発表よりも国際発表の方が,ポスター発表よりも口頭発表の方が高く評価される(と思う).その他の業績欄には受賞歴や飛び級,留学研究歴などを記載する.受賞歴は研究に関してだけではなく,学部成績優秀者のような学業に関する賞などでもいい.

5.自己評価

 「5.自己評価」は,自分の研究者としての資質をアピールするところである.①研究者を志望する動機や,目指す研究者像,自己の長所などについてと,②受賞歴,飛び級,留学などについて記載する.①の記述はそんなに難しくないかもしれないが,②については何も記載することがない人もいるかもしれない.できることなら申請時までに何かアピールできることを作っておくといい.

評価書

 この項目については指導教官が本来作成してくれる箇所であるが,指導教官によっては「書くのめんどくさいからとりあえずたたき台を作ってきて」みたいなことを言われたりもする.自分の評価書を自分で書くのはおかしいような気もするが,確かに指導教官も申請者のことをよくわかっていないこともあるだろうから仕方ないのだろう.

学振について その2 ー採用スケジュールと採用実績ー

 

採用へのスケジュール

 学振の採用スケジュールについて紹介したいと思う.まず,毎年2月上旬ごろに来年度から採用される特別研究員の募集要項が公表される.採用方法等が大きく変わることは滅多にないが,「申請年齢制限の廃止」など大きい制度変更がなされるときもある.4月上旬〜6月1日までが電子申請システムでの受付期間である.この期間中に学振へ送る電子申請書類を提出しなければならない.6月1日は学振に提出するまでの期限であるため,大学の代表機関が取りまとめて提出してくれる場合は,5月中旬〜下旬が締め切りになることもある.8月〜9月にかけて審査が行われ,10月中旬に採用結果が通達される.もしここで採用となった場合は,翌年度の4月から特別研究員としての給料が振り込まれる.不採用になってしまったらまた翌年の採用までさようなら,1年間は無給で博士生活を過ごさなければならない.補欠になった場合は,11月下旬〜12月上旬の面接試験を受けることになり,研究発表と質疑応答でその実力が試される.

 

採用実績

 最近の採用実績割合は,人昔に比べて減少傾向にある.5〜10年ぐらい前は採用率は25%ぐらいで,多い年には30%を超えるときもあった.しかし,ここ数年の採用実績は20%程度が続いている.学振に申請する博士進学者の数が増加傾向にあるのに対して,学振の予算定員数はほとんど変わっていないのが原因であろう.平成20年にはDC1申請者数が2400人,DC2の申請者が4500人だったのが,平成29年にはそれぞれ3300人と5300人にまで増加している.特別研究員採用枠は,ますます競争的な状況にあるといえよう.

もし採用されたとしても

 とは言っても,特別研究員の手取り月給20万円というのは決して高くない.働く時間に比べたらバイトしていた方が手取り収入自体は多くなることもあるだろう.手厚い社会保障を受けることができるわけでもないし,会社と違ってボーナスもない.おそらく修士卒で働いている社会人の方がいい給料をもらっているだろう.そんななか,採用されなかった大部分の博士学生の苦しさは推して測るべしである.

学歴ロンダについて

 

学歴ロンダとは

 学歴ロンダとは学歴ロンダリングの略称であり,ロンダリングとは「洗濯する」という意味である.つまり学歴ロンダとは「今いる大学よりもレベルの高い大学院へ進学する,以前の学歴を洗浄する」行為のことを指す.一般的には,大学入試よりも大学院入試の方が,難易度が低いことが多い.そのため,大学入試では偏差値が足らずに受からないような有名大学であっても,大学院では拍子抜けするほど簡単に入学できたりする.以前の記事でも書いたが院試は,専門知識が問われる問題が多く,研究者としての資質を見極められる試験であるため,幅広い科目を勉強しなければならない大学受験とは異なる.自分の好きな学問分野の知識なら誰にも負けない...みたいな人が受かりやすい.研究者気質というかオタク気質のような人たちは,自分の得意分野に関しては何の苦もなく必死に勉強するために,いい加減に大学4年間の講義を受けてきた内部生よりも知識が豊富だったりする. 

なぜ大学院の入試難易度は低いのか

 大学入試で必死に勉強して合格した人もいるのに,大学院からひょっこり進学するなんてちょっとずるいと思う人もいるかもしれない.しかし,大学院とは勉強ができる人のために人材を囲い込む場所ではなく,あらゆる学びたいという向学心が高い人に開かれているべき場所である.大学側としても,異なる考え方を持った人どうしが集まることで,互いに切磋琢磨し優れた研究成果を生み出すと期待しているのだろう.あと,外部生と内部生を院試で競わせる事で,内部生に今一度院試勉強をしっかりとさせようとしているのかもしれない.

学歴ロンダのメリット

 学歴ロンダによるメリットは,大きく分けて2つある.1つは,やはり「レベルの高い研究環境で学ぶことができるようになる」ということだろう.有名大学の研究科にもなれば,世界的に有名な教授が多いだろうし,業績を残しやすい研究テーマを与えてもらえる可能性も高い.海外の有名学会に参加したり,留学できる機会もあるだろう.研究資金も豊富にあるため最新機器が揃った研究環境だろうし,学生のモチベーションとレベルも高いので自身の刺激にもなる.

 もう1つのメリットは「就職が有利になる」ということである.最終学歴は,学歴ロンダ後の大学になるために,学歴ロンダ前の大学では入ることができないような有名企業でも,教授のコネなどを使って入社できたりする.大学院の名前が違うだけで就職のしやすさが全然違うのである.特に企業の研究職などは,大学名で判断される傾向がかなり強い.

学歴ロンダの注意点

 基本的には,学歴ロンダをする学生は,今いる大学よりももっとレベルの高い研究をしたいと考えているために,研究に対するモチベーションが高いことが多い.しかし,そうはいっても当然内部生も優秀な人は多い.なんせ大学受験でその偏差値が高い大学に受かることができる学力を持った人達だ.外部生の中には内部生のレベルの高さについていけず,途中で学校に来なくなってしまう人も少なくない.出身大学で差別待遇を受けるなんてことは聞いたことがないが,やっぱり優秀な人たちに囲まれて感じる疎外感というものもあるだろう.同学年の学生は当然内部から進学してきた人が多いわけだから,すでに仲間関係が構築されており,その輪に入っていくこともなかなか難しい.悩みを相談できるような同学年の仲間を見つけることに苦労しがちなのである.

 これまで多くの学歴ロンダをしてきた学生を見てきたが,「研究に対するモチベーションは,内部生の誰にも負けない!」ぐらいの気持ちで研究に邁進していくという気概が何よりも必要な要素なのではないかと思う. 

研究室選びで間違えないために

 

研究室ってどこでも同じ?

 同じ研究科の研究室ならどこの研究室を選んでも大差ないと思ってしまいがちだが,絶対そんなことはない.大学や研究科にも違いがあるように,研究室にも明確な違いが存在する.どっちの研究室の方がランクが上だとかを明確に決めることは,偏差値のような同じ尺度で測れる物差しがないので難しいが,論文数や研究費などいくつかの目安となる指標はあるように思う.こんな研究室には気をつけた方がいいということも含めて,研究室を見極めるポイントを紹介したいと思う.

研究室を見極めるポイント

1.研究成果が継続的に出されているか?

 研究室の研究成果といって一番に思いつくのは,何と言ってもやっぱり論文数だろう.論文が毎年コンスタントに出ている研究室は,それだけ生産性が高く研究成果を出し続けている証拠である.自分がその研究室に配属したときに,どれぐらい頑張れば論文を出すことができるかというイメージがつきやすい.博士取得のためには論文数が重要になることが多いため,論文をコンスタントに出している研究室を選べば,論文数で頭を悩ませなくて済むだろう.

2.教授,助教などのスタッフは人格的に問題ないか?

 研究室で一番の権力を持っているのはどう考えても教授である.研究室内の人事権,企業とのコネクション,研究費の獲得力というような絶対的な力を持っていることが多い.このような強大な力を持つ教授の人柄には,細心の注意を払いたい.また教授と同様に,直接指導を受けることになるであろう准教授や助教の人柄も重要である.研究室によっては,教授は講演や大学の仕事で忙しく,あまり研究室にいないということもある.自分を直接指導してくれる人が,しっかり指導してくれるか,親身に悩みを聴いてくれるか,ハラスメント問題を起こしていないかなど,しっかりと見極めた方が良い.配属されるまでどんな人柄かはわからないことも多いが,そんな場合は研究室の先輩に話を聞いてみるなどした方が良い.

3.学生はやる気に満ちているか?

 一緒に研究をする仲間である学生のやる気は重要である.やる気がない学生と一緒に実験をしてもなかなかモチベーションを維持するのは難しい.競い合う相手がいるからこそ頑張れるというものだ.昼過ぎにならないとこない学生や,来てもずっと寝ていたり喋っていたりしていて研究に不真面目な学生が多い研究室では,いかに教授達が優秀であっても研究成果は望めないであろう.

4.研究費が潤沢な研究室かどうか?

 あまり気にしなくてもいいかもしれないが,研究費の潤沢さも研究室を見極める一つのポイントになる.研究費を獲得できるということは,国や企業から研究成果が認められており,今後の研究が期待されているということである.実験系の研究室だったら,最新機器の導入や,装置数が増えることで,実際に実験を行う学生の負担が減るというメリットもある.

5.海外からの博士学生・ポスドクがいるか?

 外国人博士学生やポスドク研究員の存在も一つの指標になる.外国人が所属しているような研究室は,世界的にある程度の知名度があることを示しているだろう.海外から見ても魅力のある研究を行っている研究室である可能性が高い.(単に大学名だけで選ばれたのかもしれないし,たまたま入学できた・採用されただけかもしれないが)

学振について その1 ー学振の制度ー

 

博士学生の懐事情

 知らない人は知らないのだが,日本の博士学生は無給である.基本的には給料が出ない.なんなら学生身分であるがゆえに,講義なんてほとんど受けていないのにもかかわらず,毎年授業料を支払わなければならない.一応,RAリサーチアシスタント)や,TA(ティーチングアシスタント)と呼ばれる仕事が存在し,それぞれ研究や大学講義に関する業務をこなせば給与を得ることはできるが,それだけで生活はしていけない.大学や労働時間によっても差はあるだろうが,だいたい月に2〜8万円ぐらいが相場である.研究支援が手厚い研究科では,RAやTAの給料がもっと多いところもあるが,それでもせいぜい月12万円ぐらいもらえればいいほうである.

学振特別研究員の制度について

 こんな金銭的に厳しい生活を強いられる博士学生にとっての唯一の救いとも言える制度が,「学術振興会特別研究員(通称「学振」)」である.これは国の独立行政法人である学術振興会という組織が,博士学生を特別研究員として採用するという制度である.毎年,応募してきた博士学生全体の2〜3割程度を採用している.もし採用されることになった場合,学術振興会から手取り月々20万円の給与と,研究資金が支給される.採用区分は,博士学生1年目から採用される「DC1」と,博士学生2・3年から採用される「DC2」に分かれる.一度採用されたら博士学生である期間は給与支給され続け,DC1に採用される場合は3年間,DC2に採用された場合は2年間支給される.博士3年でDC2に採用された場合は少し変わっていて,3年の終わりに博士を取得し,企業などで働く場合は1年間,3年で博士を取得できなかったり,博士を取得してポスドクとして働く場合は2年間支給される.

 研究分野によって採用され易さに違いはなく,応募人数に対して全分野同率で採用される.例えば人文学分野に10人,生物学分野に100人の応募があった場合,採用率が3割の年では,人文学分野で3人,生物学分野で30人が採用されることになる.

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採用されなかったら...?

 もし採用されなかった残りの大部分の博士学生は一体どうなるのだろうか? 残念ながら当然給料は出ない.採用されるかされないかで,毎月の給与20万円と研究資金がもらえるかもらえないかが決まってしまうのだ.まさに博士学生の明暗を分けると言っても過言ではない.

 この問題は金銭的な話だけでは終わらない.学振の採用はすなわち職歴であり,履歴書に記載することができるものである.つまり,もし博士取得後に就職を考えている場合,学振の採用の有無で履歴書に書ける内容が変わるということである.採用担当者が学振の職歴をどれだけ重要視するかは未知数だが,無いよりあった方が絶対に有利である.どうか博士取得を目指すなら何が何でもこの学振には採用されるように努力したいところである.

大学院入試いわゆる「院試」について その2

 

 院試についてはまだまだ書きたいことがあったので2回に分けて書くことにしてみた.

院試の試験科目

 大学院の試験科目は研究科によって全く違う.基本的には,大学に入ってきて学んだ専門科目が出題範囲になる.複数の試験科目が用意されていて,その中から決められた数の科目を選び解答するというのが一般的だ.試験そのものは,その研究科の教授陣が作成しているため,試験を作成した教授の傾向が結構はっきりと出る.そのためその教授の講義をしっかりと聴いていたかどうかが結構重要になってくる.あ,この問題,〇〇教授の授業で出ていた問題だということが起こりうるのだ.

 院試の試験科目として忘れてはいけないものは「英語」である.研究するのに必要なのかと思うかも知れないが,ほとんどの大学院入試では英語の試験が実施されている.ただし,試験として英語を受けなければならないというものだけでも無い.最近では,TOEICなどで英語の能力を測る院試が一般的である.

院試の難易度

 大学にも頭が良くないと入れない名門大学があるように,大学院にも入学難易度というものが存在する.やっぱり,東大や京大の大学院へ進学するのは,地方国立大学の大学院へ進学するのよりも難しい.しかし院試は大学入試とは異なり,受験科目が多くない.大学入試では数学・現代文・古文・漢文・英語・地理・日本史・世界史,物理,化学,生物などといった多くの受験科目について勉強する必要があるが,院試では極端な話,その研究科が求める専門知識のみ勉強すれば良い.そのため苦手科目がなく全科目で点数を稼ぐ「バランス型」よりも,苦手科目もあるけどある特定の科目だけが大得意な「一点特化型」の人の方が院試では有利になる.

院試に落ちると…

 もし,大学院への進学希望者で,就職活動を全くやってこなかった学部4年生が,大学院院試に落ちてしまった場合は,一体どうなるのだろうか? これは残念ながら目も当てられないような状況になってしまう可能性がある.案外知られていない人生の落とし穴だと言えるだろう.院試に落ちてしまったときのデメリットを下にあげてみた.

大学よりもレベルの低い大学院に進学しなければならない.

 もし,第1志望の大学院に落ちてしまい,それでも大学院進学を望むのなら,どこか別の進学先を探さなければならなくなる.受験のタイミングによっては,めぼしい大学院の院試は既に終わっている可能性もあり,自分が望むようなレベルの大学院の院試を受けることができないかもしれない.必死に受験勉強して今の大学に入ったにもかかわらず,院試に落ちて大学院のレベルを下げることになると,進学しても研究のモチベーションを保つのに苦労するであろう.

卒業論文作成と院試の時期が重なる可能性がある.

 もし他の進学先を見つけることができても,受験時期が秋〜冬あたりの場合,卒業論文作成で忙しくなる時期と受験が重なる可能性がある.大学卒業に必要な卒業論文に集中したいが,院試に合格しないと進学先がない…というのはかなり精神的に辛い状況になる.

学部4年間過ごした大学から離れなければならない.

 別の大学院に合格し,なんとか進学先が決まったとしても,その大学が今の住居から通学圏内であるとは限らない.院試に落ちてしまうということは,大学卒業と同時に今の家から引越しなければならない可能性もあるということである.当然,大学4年間で培った人間関係も一度リセットされることになってしまう.

就職活動は間に合わない可能性が…

 大学院に落ちたら就職活動をすれば良いと思っている人も多いかもしれないが,就職活動は大学3年生から始まるのに対して,院試は大学4年生になってからしか始まらない.そのため,院試に落ちてから就職を始めているようでは,その時点で既に他の就活生に大分遅れをとっていることになる.ESを作成しながら院試勉強をするのは至難の技であるため,どちらも両立して行うということはまぁ不可能に近い.「就活がダメだったから大学院に進学する」ことはできても,「大学院に落ちたから就活を始める」のは基本的には難しいと思っておいた方がいい. 

院試で勉強しておくことの大切さ

 院試のことについていろいろ書いてみたが,私が思うに院試の難易度や受験する大学院のレベルなどとは関係なく,院試のための勉強はしっかりと頑張った方がいいということである.院試は受験勉強ができる生涯最後のチャンスだといえる.自分の研究テーマだけでなく,研究分野・学問の俯瞰的な視野を持つには,体系的な院試勉強が必要不可欠だと思う.これから博士号を取得しようと思った時,この時期に必死になって勉強したものは研究者として必ず大いに役に立つ.院試に通るための小手先だけの勉強にとどまらず,立派な研究者になるべく頑張って勉強してみてはどうだろう.