学振について その1 ー学振の制度ー

 

博士学生の懐事情

 知らない人は知らないのだが,日本の博士学生は無給である.基本的には給料が出ない.なんなら学生身分であるがゆえに,講義なんてほとんど受けていないのにもかかわらず,毎年授業料を支払わなければならない.一応,RAリサーチアシスタント)や,TA(ティーチングアシスタント)と呼ばれる仕事が存在し,それぞれ研究や大学講義に関する業務をこなせば給与を得ることはできるが,それだけで生活はしていけない.大学や労働時間によっても差はあるだろうが,だいたい月に2〜8万円ぐらいが相場である.研究支援が手厚い研究科では,RAやTAの給料がもっと多いところもあるが,それでもせいぜい月12万円ぐらいもらえればいいほうである.

学振特別研究員の制度について

 こんな金銭的に厳しい生活を強いられる博士学生にとっての唯一の救いとも言える制度が,「学術振興会特別研究員(通称「学振」)」である.これは国の独立行政法人である学術振興会という組織が,博士学生を特別研究員として採用するという制度である.毎年,応募してきた博士学生全体の2〜3割程度を採用している.もし採用されることになった場合,学術振興会から手取り月々20万円の給与と,研究資金が支給される.採用区分は,博士学生1年目から採用される「DC1」と,博士学生2・3年から採用される「DC2」に分かれる.一度採用されたら博士学生である期間は給与支給され続け,DC1に採用される場合は3年間,DC2に採用された場合は2年間支給される.博士3年でDC2に採用された場合は少し変わっていて,3年の終わりに博士を取得し,企業などで働く場合は1年間,3年で博士を取得できなかったり,博士を取得してポスドクとして働く場合は2年間支給される.

 研究分野によって採用され易さに違いはなく,応募人数に対して全分野同率で採用される.例えば人文学分野に10人,生物学分野に100人の応募があった場合,採用率が3割の年では,人文学分野で3人,生物学分野で30人が採用されることになる.

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採用されなかったら...?

 もし採用されなかった残りの大部分の博士学生は一体どうなるのだろうか? 残念ながら当然給料は出ない.採用されるかされないかで,毎月の給与20万円と研究資金がもらえるかもらえないかが決まってしまうのだ.まさに博士学生の明暗を分けると言っても過言ではない.

 この問題は金銭的な話だけでは終わらない.学振の採用はすなわち職歴であり,履歴書に記載することができるものである.つまり,もし博士取得後に就職を考えている場合,学振の採用の有無で履歴書に書ける内容が変わるということである.採用担当者が学振の職歴をどれだけ重要視するかは未知数だが,無いよりあった方が絶対に有利である.どうか博士取得を目指すなら何が何でもこの学振には採用されるように努力したいところである.