後輩のエントリーシートを見た時の話

 

 先日,就職活動をしている研究室の後輩と会った時に,エントリシート(以下ES)の作成についての相談を受けた.どうやらESの通過率が,研究室の同期に比べて明らかに悪いというのである.同期がES通過率6〜7割程度であるのに対して,後輩はいいとこ2割程度らしいのだ.

 

そこで後輩のESを見せてもらうことにした.少し前の記憶なので多少内容はあやふやだが,以下のような感じであった.

 

「私は責任感の強い人間です.どんな仕事も最後まで諦めずにやりきる強い気持ちを持っています.学部生時代には結婚式場で,バイトリーダーをしていました.バイトリーダーは他のバイトをまとめる役割を持っており,責任ある仕事です.結婚式の当日にミスを起こさないように,メンバーの指導や事前準備を入念に行いました.この経験を生かして御社で働きたいです.」

 

このESを初めて読んだ時の率直な感想は,「結婚式場でバイト経験がない僕でも書けそうだな」「居酒屋のバイトでも同じ文章が書けそうだな」というものだった.自己PRと言いつつも,その人にしか書けないような個性を感じなかったのである.このESからは,僕がよく知る後輩を想像することができなかった.何かESのテンプレートに当てはめて作成しているために,どこかPR内容が没個性的になっているようであった.

 

僕は人にアドバイスをできるような就活に詳しい人間ではないのだが,後輩に対してESについていくつか質問してみた.

 

「なぜこのバイトを始めたのか?」

「バイトをして学んだことって何?」

 

これに対して後輩の答えは,

 

「最初はバイト代がよかったから.でも始めてみると,一生の思い出ができる場所なのでミスが許されないという厳しい仕事だということに気づいた.」

「ミスをしないために準備する大切さを学んだ.あと一流のプランナーさんの仕事のぶりを身近で見ることができた.」

 

なるほど,少しだけ後輩の個性を感じる返答を得ることができた.後輩とさらにいくつかの質問を交わして,一緒にESを書き直すことにした.それが次のようなものである.(これも記憶があやふやなので,大体こんな感じという文章だけど...)

 

「私は責任感のある人間です.私は学生の頃,結婚式場でバイトをしていました.結婚式場というのは,式の出席者にとって一生の思い出が作られる場所であります.そのような場所で働く以上,バイトといえどもミスは許されず,絶えず緊張感を持って仕事をしなければなりません.私はこの経験から,責任感をもって仕事をやりきる大切さを学びました.」

 

どうだろうか.これで完璧というわけではないけれども,最初のESよりはその人らしさを感じさせるESになっていないだろうか.

 

自己PRを作成することだけに集中していると,どうも内容がテンプレート化したり,話をまとめる方向に行ってしまいがちである.こういう時こそ,自分だけで自己PRを作成せずに,第三者の助けを借りてみたらいかがだろうか.自分でも気づかなかった考えを引き出してもらえるかもしれない.自分が何を考えて行動していたかというのは,一人ではなかなか掘り起こせないものである.話を聞いてくれる人との対話を通じて,自分の魅力を引き出してもらうのが良い自己PRを書くヒントになるのかもしれない.

 

先日,後輩から大手化学系メーカーの内々定をもらうことができたとの連絡が来た.先日の相談が何か手助けになっていたようなら幸いである.